ゆったりとした流水、渦を巻く文様。その上に、大きく広がる扇。まるで、屏風絵を見ているような感覚になります。「赤」を効果的に使った、美術作品のような黒留袖です。身に着けるものって、その人そのものを表すと言っても、言い過ぎではないと思っています。やはり選ぶものには、好みが現れるし、センスが現れるから。このお着物で素晴らしいなと思ったのは、扇の骨組みの部分に、刺繍が施されているところです。通常、メインにしたい柄だったり強調したいところに刺繍をするものですが、今回はあえて「骨組み」。でもそうすることによって、竹の質感が出るし、本当にその奥に水の流れや竹林があるような奥行きが生まれる。とっても良い刺繍の使い方だなと、思いました。だからこそ、このお着物を選ばれた方は、「センス（扇子）」があると思うんです。よく見ていただくと、流水には梅の花が浮かんでいます。風流ですね。枝から落ちた花さえ美しい。日本の受け継がれてきた美意識を感じます。「松竹梅」「菊」はおめでたいものの代表格として、市民権を得たと言えるでしょう。祝宴の場にお召しいただくのに、これ以上安心感のある文様はありません。扇も、祝いの場に欠かせない持ち物ですし、末広がりの形に未来永劫の発展を感じさせます。古典文様なのに、押し付けがましくない、安心してお召しいただける黒留袖です。